[ 入院14日目 ] 完璧に始まる

2018/08/28 | trackback [ 0 ] | comment [ 2 ] | がん告知まで


一睡もできないまま迎えた入院14日目は、朝6時、いつも通りの採血・血圧測定・検温に加え、血栓予防の皮下注射をすることから始まった。
これから1週間、朝と夜の1日2回、二の腕のあたりに注射するらしい。
「さすがにこれは痛いと思うんです……」
看護師の佐藤さんが申し訳なさそうに言っているのを聞きながら、あたしは別のことを考えていた。

1週間後もあたしはここにいるんだ。

手術が終わったら退院できると思っていたわけじゃない。
実際、医師からも看護師からも退院の話をされたことはないし、こちらから訊いてみたこともない。
ただ、入院してからずっと、遠くても明後日ぐらいまでの予定しか立たない状態だったから、1週間後の自分を想像できたのは初めてだった。

「じゃあ今は右腕にしますね。今日の夜は左。同じところに注射し続けるとシコリになることがあるので、右と左、交互にしていきます」
「はい」

今日から1週間ってことは、この注射が終わるのは12/20。
手術で回収した破裂した卵巣の病理検査結果も1週間後くらいにわかるって言ってたから、12/20ががん告知日ってことか。

「消毒します。アルコール、大丈夫ですか?」
「はい」

12/20って、ほぼ年末じゃん。
やだ。もしかして、病院で年を越すの?
なにそれ。すごく嫌なんですけど。

「採血の時より痛いと思いますけどちょっとだけ我慢してくださいね」
「はい」

でも、病院で年を越すのは、治療ができる場合だよなあ。
もし手遅れだったら家に帰れるよね。
だって病院にいても治らないんだし。

「いきまーす」
「はーい」

よし。手遅れだって言われたらすぐに退院しよう。
で、家に帰って、身辺整理しよう。
その前に会社か。退職願い出して、仕事の引き継ぎして、私物まとめて。
あー、面倒くさいなー。

「はい、おつかれさまでした。終わりましたー」
「はーい」

でも、手遅れっていっても、いまいま死ぬわけじゃないよなあ。
3ヶ月とか?半年とか?

「痛かったでしょう?」

1年だったら、働けるうちは働いてお母さんにお金残すってのもアリか。
うーん。余命によりけりだなー。

「MYKさん?」

3ヶ月未満だったらすぐに退職願だすことにして、余命が半年以上だったら、告知されてから考えるか。
うわー、悩ましいわー。

「MYKさん?」
「え?はい?」
「注射終わりましたよ?」
「ああ、はい」
「大丈夫でした?」
「はい」
「痛かったですよねえ?」
「あ、ぜんぜん。刺したの気づきませんでした
「えっ!」
「え?」

命の危険を感じるレベルの痛みを経験したせいで痛覚がおかしくなったのかと焦ったけれど、佐藤さんがすぐに気づいた。

「ああ、痛み止めのお薬を入れてるからかもしれませんね」

そうだ。背中から痛み止めが入ってるんだった。

手術室で麻酔のため硬膜外に挿入されたカテーテルは、手術が終わっても抜かれることなくテープで固定されたままで、いまはそこから継続的に痛み止めが入れられていた。
痛み止めの薬が入った小さなボトルは、専用のネットに入れられて枕元に置いてある。
改めてよく見てみると、ボトルの中は、〝いつでも新鮮〟が売りのお醤油のボトルみたいな密閉構造になっているようだ。
なるほど。うまくできてるわ。
佐藤さんはそのボトルを手に取ると、「残量をはかりますね」と言って、持ってきていたデジタルスケールをテーブルの上に置き、ボトルの重さを量った。

「その痛み止め、いつまでもつんですか?」
「いまのペースでいくと、おそらく明後日までは」
「少ーしずつ入ってるんですね」
「そうなんです。お腹、痛みますか?」
「いえ、大丈夫です」
「痛くなったら量を増やせますからね。それから、このお薬が全部無くなったらカテーテルは抜きますけど、その後は痛み止めの注射もありますし、飲むお薬を出すこともできますから」
「痛みが続いても大丈夫、と」
「はい。痛かったら我慢しないですぐに言ってください」
「はーい」

痛み止めといえば、O病院で投与された時のことを思い出す。
あれで自分が、〝痛みには強いけど痛み止めには滅法弱い〟ことを自覚したのだけれど、いまのこの痛み止めならぜんぜん平気だ。
意識を保っていられて、かつ、痛みがない。
完璧。完璧だ。



こうして始まった入院14日目だったが、この日あたしは、痛み止めのせいで心身ともに追い詰められ、最悪の事態に陥ることになる。



[ 次回更新は8/30の予定です ]



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■ 経緯

2012年12月:ひどい腹痛と呼吸困難で総合病院の救急外来へ。入院。左卵巣が破裂していると言われる。転院。余命1ヶ月未満と診断される。破裂した卵巣の摘出手術後、左卵巣がん(類内膜腺がん)3c期と告知される。抗がん剤治療開始。

2013年01月:ヅラをかぶる。
2013年02月:「ヅラが飛びそうな強風のため」という理由で休もうとするも会社のボスに却下される。
2013年05月:抗がん剤治療終了。
2013年07月:子宮、右卵巣、リンパ節などの摘出手術。
2013年08月:再び抗がん剤治療開始。術後腹壁瘢痕ヘルニアの予兆。
2013年10月:抗がん剤治療終了。月1回の通院で経過観察へ。術後腹壁瘢痕ヘルニアと診断される。

2014年02月:術後腹壁瘢痕ヘルニア手術。
2014年04月:CTの結果を経て、すべての治療終了。
2014年10月:抗がん剤治療終了から1年経過し、通院が2ヶ月に1回となる。ヅラを脱ぐ。
2014年11月:健康診断で人生最重量を記録する。

comment

: かなめ
予定通り、覗いてみました♪(笑)

あー、「結果を待つ」あの時の気持ちが蘇りました。
私も混乱しながらも、意外と淡々と「こうだったらこうだな」って考えてました。
考えるばかりで・・・本当にぐるぐる気持ちの定まらない時間でしたが。

次回も予告登板(笑)
指折り数えて待っときます♪
2018/08/28 Tue 07:31 URL
いやいやいや… : Dorry
硬膜外麻酔してても皮下注射まったく痛くないってことは
ないと思いますよ、普通…さすがMYKさん
2018/08/30 Thu 22:05 URL

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