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≪≪ [ 入院13日目 ] 手を貸せてないなんて言わせない | 歩いて泣いて踊って飲んで、歩いてまた歩く ≫≫




■ 経緯

2012年12月:ひどい腹痛と呼吸困難で総合病院の救急外来へ。入院。左卵巣が破裂していると言われる。転院。余命1ヶ月未満と診断される。破裂した卵巣の摘出手術後、左卵巣がん(類内膜腺がん)3c期と告知される。抗がん剤治療開始。

2013年01月:ヅラをかぶる。
2013年02月:「ヅラが飛びそうな強風のため」という理由で休もうとするも会社のボスに却下される。
2013年05月:抗がん剤治療終了。
2013年07月:子宮、右卵巣、リンパ節などの摘出手術。
2013年08月:再び抗がん剤治療開始。術後腹壁瘢痕ヘルニアの予兆。
2013年10月:抗がん剤治療終了。月1回の通院で経過観察へ。術後腹壁瘢痕ヘルニアと診断される。

2014年02月:術後腹壁瘢痕ヘルニア手術。
2014年04月:CTの結果を経て、すべての治療終了。
2014年10月:抗がん剤治療終了から1年経過し、通院が2ヶ月に1回となる。ヅラを脱ぐ。
2014年11月:健康診断で人生最重量を記録する。

[ 入院13日目 ] さすがなトリオ

2017/08/24 | trackback [ 0 ] | comment [ 10 ] | がん告知まで


坂口先生と入れ替わりに母が戻ってきた。
手に下げたコンビニのレジ袋からは、女性週刊誌がはみ出している。
手術中に読むのね。かまいたちに腹を斬られたことは忘れたのね。よかったよかった。

「もう30分経った?」と母が言うと、それに答えるみたいに看護師の佐々木さんがやってきた。

「MYKさん、ちょっと早いけどそろそろ行く準備を始めましょうか」

手術室に行く時用の前開きのパジャマには着替えたし、貴重品は母に預けたし、部屋の移動に備えて私物は全部キャビネットにしまっていた。
となると、準備することがない。
「もう行ける感じです」とあたしが答えると、佐々木さんはその場で手術室に電話を入れた。
その様子を見て母はにわかに慌てだしたけれど、逆にあたしは、寝坊したせいで急いていた気持ちがすぅっと落ち着いた。
いよいよあたしの、本当の治療が始まる。



佐々木さんは電話を切ると、「麻酔科の先生からOK出たので手術室に移動しましょう」と言った。
そして、廊下を通りかかった看護師の福田さんを呼び止めると、あたしを見て、「ストレッチャーじゃなく、車椅子でも大丈夫ですか?」と聞いてきた。

「歩いて行ってもいいんでしょうか?」
「ゆっくりならオッケーです。オペ室、結構遠いんですけど歩けますか?」
「歩けます」

「結構遠い」がどの程度なのかはわからなかったけれど、車椅子で運ばれるよりは自分で歩いたほうが身体の痛みが少ないことはわかっていた。

〝少しの段差でも痛むのでゆっくり越えてください〟とか〝腹筋が使えないのでもっと緩やかに止まって緩やかにスタートしてください〟とか、自分の状態を伝えて対応の仕方を変えて貰うようなことが、昔から出来ない。
痛みや苦しさや辛さや悲しみや怒り。そういう負の感情を率直に伝えるのはいつでもかなりの勇気が必要で、まして、自分の状態に合わせて相手の言動を変えさせることになるくらいなら言わないでおいたほうが精神的に楽だったりする。
他人はそれを〝我慢強い〟と評すけれど、本当はそんなんじゃない。
優柔不断なだけだ。

息をしてるだけで痛いのだから何をしてもしなくてもだいたい痛いわけで、〝車椅子の振動でお腹が痛むんです〟なんてことは、言い出すとキリがない。
少なくとも看護師さんは、腹が痛い人だとわかったうえで車椅子に乗せているわけで、移動することによって〝ある程度の痛み〟が生じることもわかっているだろう。
あたしが痛いと言えなくなる理由はここにある。
〝ある程度の痛み〟がどの程度なのかがわからないのだ。
自分がいま感じている痛みが、言うべきレベルの痛みなのかどうかが、まったくわからないのだ。

もちろん、入院から1週間近く続いていた命の危険を感じるレベルの痛みなら、〝痛い〟も〝苦しい〟も言えるし、実際に言った。
だけど、たとえば採血。
血管が見えないわ細いわなので、1回で済まないことも多々あるし、針で血管を探られたこともある。
〝さすがにこれは、「ちょっとチクっとしますよー」レベルじゃないよなあ〟まではわかるのだけれど、〝痛い(からもう探るな。諦めろ)〟と申し出るタイミングが全然わからない。
ものすごく痛いのか?というとそれほどではないし、けれどいつもの採血よりは痛い。
ただ、もう少しで血管を探り当てるかもしれないと考えると、もうちょっと待ってみようか…となって、結果的に、痛いと申し出るタイミングを逸してしまう。
これはもう、〝そういう性格なんです〟としか言いようがないのだけれど、それが原因で、手術翌日の真夜中にメンタルがどん底に落ちることを、この時のあたしはまだ知らない。



手術室に行こうと立ちあがって肩からパーカーを羽織ったとき、同室の3人が楽しげにお喋りをしながら戻ってきた。
3人が揃って不在だったのは、病院内でがん患者のためのメイクレッスンが行われたからで、3人全員ががん患者であることを、あたしはこの時はじめて知った。

いままさに部屋から出ようとしているあたしを見て、瀬川さんとタケちゃんは足を止めた。

瀬川「いよいよ手術なのね!」
タケちゃん「頑張って!」
瀬川「でもMYKさん、もうここには戻ってこないのね…。残念…」
タケちゃん「もっとお話ししたかったのにー」

がんばるって具体的にはどういう風に?とか、戻ってこれなくてよかったですとか、私は話したいことありませんがーとか、胸の内でいつも通り悪態をつきながら、「がんばります」とか「お世話になりました」とか、軽く返事をした。
一方、あたしには目もくれず窓側の自分のベッドまで戻った加藤さんは、ベッドに座ってこちらに背を向けたまま、なぜか、あたしと話している瀬川さんとタケちゃんに大声で話しかけていた。

「ねえ、瀬川さん。メイクの先生、100円ショップにもつけまつげ売ってるって言ってたわよねぇ。退院したら見に行かなくちゃねぇ」
「タケちゃん。ねえ、タケちゃんってばー。アイブロウって何だっけ?目張り?眉墨?」

目張りとか眉墨っていう単語、久しぶりに聞いたなー。
でもそういえば、アイブロウっていう単語、加藤さんくらいの年齢になると覚えにくいのかも。
うちのお母さんは、随分前から〝眉墨〟とは言わなくなったけど、それでも〝アイブロウ〟っていう単語がすぐに出てこないから結局、「眉毛描くやつ」って言っちゃって、だったら眉墨で良いのでは!みたいなことになってるもん。
ところで、どうして瀬川さんとタケちゃんは加藤さんに答えてあげないんだろう。
いまじゃなくてもいい話で無理やり割り込んできている加藤さんはどうかと思うけれど、あたしと違って瀬川さんとタケちゃんは、いつも加藤さんと仲良く話しているんだから、無視することないじゃないかー。
何か言ってあげないさいよー。

そんなことを思いながら加藤さんの背中を眺めていると、それに気づいたタケちゃんがあたしを小声で呼んだ。
視線を戻すとタケちゃんは、目を細め、顔をしかめて首を左右に振った。
〝ほっときましょう〟なのか〝気にしないで〟なのか、他の意味なのかは分からないけれど、とにかくその目配せが気に障った。カチンときた。短気なので。

こういう、八方美人で日和見主義な人が嫌いだ。
あっちにもこっちにもいい顔をして、その場の流れで立ち位置がコロコロ変わる。
あっちに行ってはこっちの悪口を言い、こっちに来ればあっちを悪く言うような、子どもじみた振る舞いを平気でする大人が本当に嫌いだ。
それにいまこの瞬間、加藤さんは明らかに弱者だ。
病室にいる全員が一箇所に集まり、加藤さんだけがポツンとひとりでいて、そこからいつもの仲間に声をかけて無視されている。
これは弱者を作る瞬間の、いじめの構図そのものだ。

もちろん、自業自得だとは思う。
加藤さんは孤立して当然の振る舞いをしてきた。
だけど、ついさっきまで和気あいあいと話していた二人に手のひらを返されるなんて思っていないだろう。

何よりも、自分ががいじめる側にいることが嫌だった。
3対1の1になるのは平気だ。むしろ1がいい。
だけど、3になるのはまっぴらごめんだった。
だから、この構図を崩すべく口を開こうとした、その時だった。



「アイブロウってどっちなんだっけ、MYKちゃん」



黙っていられない母が加藤さんの質問に食いついた。
お母さん、グッジョブでーす。

あたしは母に向かって、でも、少しだけ声を張って答えた。

「アイブロウは眉墨で、目張りがアイライナーです」
「あぁ……何回聞いても覚えられない。どうやって覚えればいいんだろう」
「どっちがどっちって覚えるより、〝目張り=アイライン〟って覚えれば、アイラインをひくのがアイライナーで、アイライナーじゃないほうが眉墨、ってことになりませんかね」
「えー、何回聞いても覚えられなーい」

母とこの話をするのは初めてじゃない。3回はした。いや、5回くらいしている。
あたしの真面目な提案をサラっと聞き流して「覚えられないわー」と繰り返す母は明らかに覚える気がないのだけれど、「覚える気がないなら聞かないで」と腹を立てる時期はとうの昔に終わっているので、「んー、あたしが一緒の時は教えられるけどねえ」と言うに留めた。
すると、予想していた方向から予想以上の言葉が聞こえた。



「覚えたわ、私」



ニヤついてしまうのをぐっと堪え、無表情を装って声の主を振り返ると、レッスンでメイクをしてきたいつもより顔色のいい加藤さんが、あたしを見ていた。
絵に描いたようなドヤ顔で。
その表情に、「さすが…」という言葉が口をついて出た。
もちろんこれは、〝ついさっきメイクレッスンでレクチャーされたばかりの〝アイブロウ〟が目張りか眉墨か忘れて、「どっちなんだっけ?」って訊いてたくせに、舌の根も乾かぬうちにこのドヤ顔。私なら恥ずかしくてできませんが、そこはさすが加藤さん〟という、嫌味100%の「さすが」である。(性格が悪いので)
すると、あたしの言葉に釣られた日和見コンビが加藤さんを持ち上げはじめた。

「ほんと、さすが加藤さん!覚えるのが早いわー!」
「やっぱり頭の出来が違うんだ!似たようなカタカナってなかなか覚えられないよー」

おふたりの変わり身の早さも〝さすが〟です。(嫌味100%)



3人がまた仲良さげに喋りはじめたのを見届けると、「じゃあいってきます。お世話になりました」とだけ言って、病室を出た。



看護師の佐々木さん、福田さんと母の4人で、〝医療業務用〟と書かれたエレベーターの前に立つ。
なかなかこないエレベーターを待ちながら、福田さんと、「緊張してますか?」「ちょっとだけ」みたいな当り障りのない会話をしていると、佐々木さんが言った。

「MYKさん。さっきの」
「ん?」
「さっきの加藤さん対応、〝さすが〟です」



佐々木さん……それはどっちの意味の〝さすが〟でしょうか……。



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■ 経緯

2012年12月:ひどい腹痛と呼吸困難で総合病院の救急外来へ。入院。左卵巣が破裂していると言われる。転院。余命1ヶ月未満と診断される。破裂した卵巣の摘出手術後、左卵巣がん(類内膜腺がん)3c期と告知される。抗がん剤治療開始。

2013年01月:ヅラをかぶる。
2013年02月:「ヅラが飛びそうな強風のため」という理由で休もうとするも会社のボスに却下される。
2013年05月:抗がん剤治療終了。
2013年07月:子宮、右卵巣、リンパ節などの摘出手術。
2013年08月:再び抗がん剤治療開始。術後腹壁瘢痕ヘルニアの予兆。
2013年10月:抗がん剤治療終了。月1回の通院で経過観察へ。術後腹壁瘢痕ヘルニアと診断される。

2014年02月:術後腹壁瘢痕ヘルニア手術。
2014年04月:CTの結果を経て、すべての治療終了。
2014年10月:抗がん剤治療終了から1年経過し、通院が2ヶ月に1回となる。ヅラを脱ぐ。
2014年11月:健康診断で人生最重量を記録する。

comment

こんにちは : ファン
読んだよ。早く続きを書け!ポッチット押す前に文を書いてみた(;゜0゜)
2017/08/24 Thu 15:59 URL
: かなめ
わかってるぅ♪佐々木さんもさすがです(笑)
2017/08/24 Thu 23:13 URL
さすが(笑) : ポテチ
更新ありがとうございます。
色んな意味でそれぞれさすがです。

病院の人間関係は、職場の人間関係と違う大変さがありますね。
入院患者も医療関係者も、気をつかうタイプの人は大変気をつかう。

ずっとお腹が痛い状態で、大抵の人なら緊張して自分の事しか考えられないような手術前の時に、自分に辛く当たる加藤さんに対しても、いじめの構図の少数派にはさせないMYKさんは本当に素敵です。

それにしても、MYKさんはかなりの甘え下手ですね。1人で色々と頑張ってしまうところがまた、いじらしくて応援したい気持ちになるのですが。

手術後にどんな地獄が待っているのか気になります。痛みを堪えて自分で車を運転してきて、最低限の薬でピンチを脱したMYKさんなのに…。

これからも無理のないペースで更新してくださいね。お待ちしています。
2017/09/11 Mon 10:18 URL
こんにちは : ストーカーファンです
明日で前の更新から1ヶ月になるぞ。早く書きなさいよ~続きが気になるでしょう。どんだけ待たせるつもりよ(;゜0゜)
2017/09/23 Sat 15:07 URL
: ぴかはにゃ
お元気ですか?
広告が出ちゃって気になって…
お忙しいのかな?
また更新待ってます☆
2017/09/26 Tue 23:47 URL
もう9月終わっちゃいますよー
続きはいつですか?
2017/09/29 Fri 09:56 URL
心配しております : きみ
月刊ブログも締切過ぎてしまい、ちょっと心配です。
続きより、mykさんの体調の方が。
忙しくしてると信じて 更新待ってますね。
くれぐれも無理されませんよぅに。
2017/10/03 Tue 18:10 URL
: ntm
はじめまして。
会社の健康診断で毎年卵巣がんにひっかかっており、毎年再検査しています。
そんなとき、このブログを見つけ、最初から読みました。私もアラフォーです。MYKさんの症状が私にも現れたとしても、私もなにも思わず「疲れてるのかな?」ぐらいにしか思わなかったとおもいます。更新を励みにしています。
2017/10/08 Sun 22:14 URL
: YUZU
MYKさん

お久しぶりです。

たぶん…余計な、コメントだと思いますが…。

2ヶ月近く、ブログの更新が無いのは?

ただ、気持ちが乗らないとか、忙しいだけなら、まだ いいのですが…。
コメント承認もされてないようなので、少し気になって。
2017/10/12 Thu 21:08 URL
どうしたかな。 : annehosig
お元気ですか?余計なお世話ですが、10月ですよ。そろそろ続き書いて見ませんかねー‼新しいコメントも承認してるし、元気なんですよね。ちょっと心配しちゃってますよ。
2017/10/14 Sat 06:29 URL

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